ニセ札ローラー族だったかもしれない ー映画「陸軍登戸研究所」を観て


「陸軍登戸研究所」(2/1(土)より上映)は、
戦中に川崎市に存在し、秘密戦兵器・資材を研究開発した研究所を
記録や証言によって明らかにしていくドキュメンタリー作品です。

▼ 陸軍登戸研究所ーシネマ・ジャック&ベティ
https://www.jackandbetty.net/cinema/detail/206/

事前にチラシなどを見ていた私は、当然のことに、
「風船爆弾!」
「ニセ札!」
「殺人光線!」

といった兵器の名前にワクワクして見始めました。

研究所は川崎にあったことも分かってましたので、
「ドラえもんの秘密道具かよ!」
と、ツっこむ心の準備までしていましたよ。

しかし、当時の研究所に実際に務めていたり、
関わりがあった方々の証言を聞いているうちに、
ムム!と思った瞬間が何度もありました。

たとえばごく一例ですが、

ニセ札製造で、使用感を演出するために、
ひたすら札を汚す仕事の女学生がいた。

汚したローラーの間に、まっさらのニセ札をはさみ、
手回しして使用感をつけていく女学生…。

私が最初にイメージしていた
「アメリカ本土を爆撃する風船爆弾!」
「中国政府をかく乱するニセ札!」
といった兵器のスケール感からは、
あまりにもほど遠い、なんとも地味な光景です。

しかし、ふと頭の中に想像された女学生の姿は、
自分とまったく地続きなものに思えました。

だって、その仕事なら、私だってできます。

当時、たまたま私が研究所にいたとして、
そのニセ札汚しの仕事をしていても、不思議はない。

いや、なんなら、ニセ札汚しの最高記録に、
日々、前向きにチャレンジしていた気がする。
「これじゃニセ札ローラー族だなー」とかいいながら。

そう思いはじめると、
観始める前は、自分からほど遠い存在で、
ある種、オカルト的な研究所のように感じていた
登戸研究所が、グッと、自分に迫って来ました。

私のような普通の人が、普通にできる作業が行われて、
登戸研究所の兵器開発は行われていた。

風船爆弾!や殺人光線!といっても、
オカルト的暴走や、狂気の沙汰というだけのものでなく、
“普通”が積み重なった結果でもあるんだなと、
素直に思わされたのでした。

登戸研究所は、日本史において唯一無二の特殊な施設です。

しかし特殊だからこそ、
“その特殊に関わった普通の人たちがいた”という
いたって当たり前の事実を、際立たせて感じさせます。

そのことは、本作「陸軍登戸研究所」が、
歴史的事実と、客観的事実を伝えるにとどまらず、
関わった方の個人的な記憶や感情を尊重して、
丁寧に迫っていったからこそなのだと思います。

「陸軍登戸研究所」の作品時間は180分。
しかし、これでもかなり削った!と感じさせる力作です。
また、たくさんの要素が入っていますので、
観る方それぞれに、着眼点がある作品でもあると思います。

2/1(土)より2週間・連日1回ずつの上映ですので、
興味を惹かれた方は、ぜひご覧ください。

P.S
本作を観て感じたことは、ハンナ・アーレントが“悪の凡庸さ”として、
論じたことにも通じているとも思います。
併せてご覧いただくのもオススメしたいです。

小林

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