韓国<ミリム劇場への道>4号


milim04_top<ミリム劇場への道>4号
〜2019年6月、韓国インチョンで、ジャック&ベティとミリム劇場の共同企画が開催されました。
本稿は当館のお客様にその内容を報告し、今後を見届けて頂くためのドキュメントです。〜
(報告:副支配人・小林)

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2019年6/7(金)〜6/9(日)の三日間、韓国・インチョンのミリム劇場にて、《インチョンから横浜までージャック&ベティとミリム劇場》が開催された。昨年11月のミリム劇場のチェ部長の突然の来訪から約半年。いよいよ、ついに、本気と書いてマジに、ジャック&ベティがミリム劇場へ旅立つときが来たのだ。

6/6(木)インチョン国際空港に到着したジャック&ベティ一行を、チェ部長が空港で迎えてくれた。
個人的には16年ぶりの韓国。インチョン国際空港で降りたのは初めてだったが、市街へ向かう車中から見える風景の移り変わりが印象的だった。空港周辺の広大な埋立地を通って大きな橋を渡ると、高層アパート群とショッピングモールが立ち並ぶ。そしてミリム劇場近郊のインチョン旧市街地に近づくにつれ、古くて小さな商店が立ち並ぶ街並みに変わった。それだけで、インチョン市の断層を垣間見たようだった。
ホテルに到着すると、なんとフロントに今回の企画のバナーが飾られていた。こんなお出迎えをいただくのは間違いなく生涯に一度なので、一片の悔いもないよう記念撮影。ホテルの部屋はオーシャンビューで、客船のターミナルと貨物駅が目の前にあった。

いざ韓国! 日本に残るスタッフの協力で ジャック&ベティは休館せずに済みました。

いざ韓国! 日本に残るスタッフの協力で
ジャック&ベティは休館せずに済みました。

チェ部長と弟のチェ・ヒョンジュンさんと。 ハーバーパークホテルで記念撮影

チェ部長と弟のチェ・ヒョンギさんと。
ハーバーパークホテルで記念撮影


宿泊したハーバーパークホテルの部屋から

宿泊したハーバーパークホテルの部屋から

そして翌日、ホテルから車で数分、いよいよミリム劇場に到着。歴史ある劇場だが、外装も内装も丁寧に手入れされていることがよくわかった。モギリやロビー、各所でスタッフとお客さんが声を掛け合って、和やかな雰囲気だ。
初回上映『あん』の開場中、場内に入らせてもらう。スクリーンは大きく、幅は十メートル近くあろうか。空調もちゃんと効いていた(失礼)。そして場内のBGMは懐メロ調の曲が次々流れるが、やはりポンチャックもミックスされていた。このBGMは日本開催時もぜひ取り入れたい。

2階には売店があり、スナック菓子やカップ麺、ジュースなどが所狭しと積まれている。その充実ぶりには驚いたが、後になればそれも納得。テーブルや椅子が置かれた売店前のスペースは、多くの来場者の憩いの場となっているのだった。お客さんも顔見知り同士が多いようで、談笑しながら麺をすすったり、アイスを舐めたり。映画の前後に、ここでゆったりと過ごすのだろう。

ミリム劇場に到着。バス通りに面していて、 最寄りの東インチョン駅からは3分程。

ミリム劇場に到着。バス通りに面していて、
最寄りの東インチョン駅からは3分程。

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見るだけで心が豊かになるナイスな売店

見るだけで心が豊かになるナイスな売店

売店スペースの憩いの風景

売店スペースの憩いの風景


さて本企画の上映作品は、ジャック&ベティ推薦作品として『人生フルーツ』『万引き家族』『カメラを止めるな!』『沖縄スパイ戦史』『日日是好日』『南極料理人』。ミリム劇場推薦の韓国独立系映画として『妓生:花の告白』『1991、春』『カウンターズ』『おとなになったら』。そのほかにバリアフリー上映として日韓1作品ずつ『あん』『I Can Speak』だ。

一部の作品では、先述の2階売店前スペースで、監督らと観客との交流イベントが設けられた。日本から制作側として唯一参加くださった沖田修一監督の『南極料理人』上映とイベントには、多くの観客が参加し、様々な質問があがった。沖田修一監督は韓国でも人気があり、打ち上げでふらりと入った居酒屋で、映画好きの店員からサインと写真を求められることもあった。

沖田修一監督イベントは大盛況。「モリのいる 場所」も今年中に韓国で公開予定とのこと。

沖田修一監督イベントは大盛況。「モリのいる場所」も今年中に韓国で公開予定とのこと。

ジャック&ベティのお客様に協力頂いたメッセージボードも喜んでいただけました。

ジャック&ベティのお客様に協力頂いたメッセージボードも喜んでいただけました。


それにしても映画館で働く身としては、お客さんの入りが気になる。推薦作があまり入らないと申し訳ないし…と度々客席を覗かせてもらうが、正直ジャック&ベティでいえばまずますというお客さんの数だ。私はそのことをチェ部長に伝えたが、「料金が違いますよね」と言われてハッとした。韓国は日本に比べて鑑賞料金が低く設定されている。特にミリム劇場は、シルバー映画館として、年配向けに安価で作品を観せていることもあり、本企画の料金も55歳以上は2000ウォン(約200円)に抑えられている。シニア1100円を頂いている我々と同程度の人数で十分なはずがないのだった。
ちなみにインチョン市内には、ジャック&ベティと近いラインナップの上映を行う4スクリーンのミニシアター「映画空間チュアン」があり、そちらは一般6000ウォン(金土日は8000ウォン)、シニアや学生は5000ウォンだった。ミリム劇場よりは高いが、それでも日本よりはかなり安価だ。
料金が違うことで、来場者数の感覚が大きく違うことに改めて気付かされた。

お客さんは入っているかしら…

お客さんは入っているかしら…

4スクリーンのミニシアター「映画空間チュアン」

4スクリーンのミニシアター「映画空間チュアン」


日本のコミュニティシネマセンターを中心としたフォーラムでも、日韓のミニシアターの現状が話題となった。コミュニティシネマセンターによると、2017年の一人当たりの年間鑑賞本数は、日本の1.4本に対して、韓国はなんと4.3本。アメリカやフランスよりも多い。
先述した料金の違いはあれど、それほどの動員があれば、韓国の映画館はかなり潤っていそうだが、ソウルのミニシアター「アートナイン」のチュヒさんによると、一部の大作に観客が集まる傾向が強く、ミニシアター系作品は厳しい状況にあるという。確かに、韓国映画のチラシには「韓国一千万人突破」という文字をよく目にするのだが、2017年に韓国で公開された映画は1,765本にも上るという(日本は1,187本)。
作品の供給が増える一方で、その多くが陽の目に当たりにくい。映画大国である韓国も、ミニシアターは日本と驚くほど似た悩みを抱えていた。こうした状況の共有も、今回の交流の成果であり、今後の可能性を感じた部分だった。

ジャック&ベティは歴史と現状を発表

ジャック&ベティは歴史と現状を発表

コミュニティシネマセンターの話題には ソウルのミニシアター2館も参加した

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ソウルのミニシアター2館も参加した

Art Lab Ovaさんは多文化映画祭はじめ アートで街や映画館と関わった例を紹介

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アートで街や映画館と関わった例を紹介


ジャック&ベティが発表したフォーラムでは、「横浜は好きで何度も行っているんだ」と参加者の方が声をかけてくださった。インチョンは広く、今回歩いたのはミリム劇場近郊の一部に過ぎないが、個人商店が多く、道は入り組んでいて、ふと廃屋に突き当たったり、夜には怪しげなネオンが…と心を惹かれる街並みで、個人的にもインチョンは大好きな街になった。ちなみにインチョン市はロケ誘致にも力を入れていて、『新しき世界』『タクシー運転手』はじめ多数の映画が撮影されている。

インチョン映像委員会。 ロケ支援などを行なっている

インチョン映像委員会。
ロケ支援などを行なっている

際限なく歩き続けたくなる街

際限なく歩き続けたくなる街

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インチョンに滞在した5日間は、充実した日々だった。サムギョプサル、ジャージャー麺、韓国チキン…もうおなかいっぱい…あ、いやもちろん食事だけはなかった。日韓の映画館お互いに発見と共感があった。なにより、糸ほどの小さなきっかけから、国を越えて映画館が実際に繋がったということに大きな価値があった。大変な準備をしてくださったチェ部長はじめミリム劇場さんには、本当に感謝と尊敬の念しかありません。

さて、この場で発表しますが、《インチョンから横浜までージャック&ベティとミリム劇場》の日本側での開催を、9/7(土)・8(日)に行います!
韓国ドキュメンタリー『妓生:花の告白』『1991、春』を日本初公開、またインチョンロケ作品でもある『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』を上映。ミリム劇場のチェ部長はじめ、韓国からお招きした作品関係者によるトークも行います。
日韓の政治関係では良いニュースが少ない今こそ…と気張るわけではありませんが、燃えてくるのも事実。ミリム劇場で受け取ったバトンを、ジャック&ベティのお客さまにも届けたいと思います。今後の交流企画の継続的な開催にとっては、普段の映画館のお客さまに、どれだけご参加頂けるかということがなにより大事なこと。ぜひ本企画をこれからも楽しく見届けてください。

今回はミリム劇場の皆さんをはじめ、学生ボランティアの方なども支えてくれました

今回はミリム劇場の皆さんをはじめ、学生ボランティアの方なども支えてくれました

次回は9月、ジャック&ベティにミリム劇場がやってきます。ぜひご参加ください。

次回は9月、ジャック&ベティにミリム劇場がやってきます。ぜひご参加ください。

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